エレペット(初期)
三菱「エレペット」は、三菱が1961年(昭和36年)に発売した規格型エレベータの商標です。
「エレペット」は、1979年(昭和54年)に後継の「エレペットアドバンス」が発売されるまで長期間使用されており、その間に何度もモデルチェンジをしています。
そのため、製造初期と末期の頃ではほぼ別のエレベーターといっても過言ではないほど変化しており、変化の大きかった2回のモデルチェンジを目安に、マニアの間では主に3つの区分けをしています。
1961年に発売された所謂「初期エレペット」は、日本工業規格(JIS A 4301:1960)に規定される仕様のうち、11名750Kgまでが標準仕様として設定されました。
1968年頃までの最初期のエレペットには、C-1形とS-2形意匠の二つがあります。
三菱電機株式会社ビル施設工事部(1994)『三菱エレベーター・エスカレーターの歩み(昭和40年まで)』より引用
1963年(昭和38年)製
形 式:P6-2S
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
意 匠:C-1
呼び出し釦の表記は漢字の「上」「下」です。操作盤の開閉釦は「開」のみです。表記は「戸開」です。
カゴ内にインジケータはなく、行先階釦がインジケータを兼ねています。
銘板には高級感があります。
使用方法が書かれたプレート自体は珍しくありませんが、このタイプは他で見たことがありません。
具体的に説明されており、エレベーターの運転手なし全自動運転が珍しかったことが窺えます。説明のある「E…N STOP」ボタンは見当たらず、「CALL BELL」は「非常呼」になっています。
「非常呼」釦とは別に非常電話があります。表記は「電話」です。
天井には丸い照明がついています。中には丸形蛍光灯が入っていると思われます。
換気扇はなく、扇風機が設置されています。
敷居には「MITSUBISHI」のロゴがあります。乗り場側の溝は一部埋められています。
1964年(昭和39年)製
形 式:P7-2S
定 員:7名
積載荷重:500kg
制御方式:AC2
意 匠:C-1
二枚とも同じ写真に見えますが、
漢字表記と三角矢印が混在していました。どちらか交換されたのか、元からなのかは不明です。
非常呼び出し釦は先程と違い「非常ベル」になっています。
M2もなかなか珍しいです。
左画像は三菱エレペットの銘板です。このタイプは珍しく、初期の中でも残存数は少ないです。
諸元のプレートは破損しています。先程のプレートより地味です。
非常電話のプレートは絵記号付き「非常電話」表記になりました。蓋の構造は変わりません。
1965年(昭和40年)製
形 式:P9-CO
定 員:9名
積載荷重:600kg
制御方式:AC2
意 匠:S-2
呼び出し釦は三角矢印です。操作盤には「閉」釦もあります。ただし、かごの大きさによる仕様の違いなのかもしれません。
諸元のプレート(銘板)にはアクリル樹脂に機械彫刻で文字入れしたようなものとそうでないものの二種類が存在します。
透明のプレートには色違いもあり、どのように使い分けていたのでしょうか。
天井には換気扇を取り付ける十分なスペースがありますが、設置されておらず、扇風機を取り付けていた跡がありました。
1966年(昭和41年)製
形 式:P6-2S
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
意 匠:C-1
非常釦は「非常ベル」です。普段「MITSUBISHI ELECTORIC CORPORATION」と書かれた丸いプレートがある箇所は、非常止め釦になっています。
推測ですが、当初は標準搭載されていたものが、いたずらや誤動作があったことから塞がれたのではないかと思います。
また、製造初期はボタンタイプが、後年は乱用防止カバーを取り付けできるスイッチタイプが採用されていることからも、いたずらが多かったと考えることができます。
非常電話のプレートのプレートに変化はありませんが、蓋が操作盤と同じ材質になりました。
1966年(昭和41年)製
形 式:P6-SS
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
意 匠:C-1
インジケータの材質が半透明なものになっています。冒頭の1962年製エレペットの方向灯も半透明でしたが、違いはよくわかりません。
「MITSUBISHI」の銘板は後に交換されている可能性が高いです。
非常電話。操作盤からは独立しています。
1966年(昭和41年)仕様変更
1966年(昭和41年)、エレペット発売以来初めての大きな仕様変更がありました。巻上機、モーターの設計変更もあり、動作音にも違いがあります。(2)かご内位置表示器は独立形とし,出入口上部に設置した。
(3)非常用電話器箱をかごと操作盤と連続形のデザインとして,意匠を向上した。
(4)出入口柱,かご室内のアクセントのアルミ目地等のデザイン,および仕上げを改良して外観を向上させた。
(5)乗場インジケータを機能的で最新なデザインとした。
(6)標準塗色をこれまでの3色から18色に増加し,軽快な色調を大幅に取り入れた。
(7)従来のかご室内の換気装置は,かべかけファンを採用していたため,空間を占有していたが,これを天井埋め込みのデフューザタイプに改善した。 これにより,エレペット風格が一段と向上し,高級化した。
(8)幅木部分に換気孔を設けて換気効果を向上させた。
(9)意匠品の塗装仕上の向上。
従来は,ややつやを落として落ち着きを出していたが,その反面,塗装面が汚損しやすい欠点があったので,今回全つやに準ずる仕様に改善した。
(10)「エレペットデラックス」においては,かご室及びドアーに「デコラ」,または「アルミ化粧板」を使用して,それぞれビルのデザインに調和するものを選べるようにした。
1966~1967年(昭和41~昭和42年)製?
形 式:P6-2S?
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
過渡期ではないかと思われるエレペットです。乗場インジケータは従来のままですが、ボタンは漢字ではなくなっています。
銘板に変化はありません。
非常電話と操作盤が連続したデザインになっています。
ドア上にインジケータがあります。照明も丸形ではなく直管蛍光灯に変わっていますが、換気扇はなく、扇風機が取り付けられていた台座が見えます。これが過渡期ではないかと思う根拠です。
敷居
1967年(昭和42年)製
形 式:P6-SS?
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
ボタンに枠がつきました。インジケータの方向灯の位置が上部に変更されています。
換気扇が設置されています。
銘板。変化なし。
非常電話は操作盤と連続しています。
1967年(昭和42年)製
形 式:P6-2S?
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
貴重な群管理、高層のエレペットです。
インジケータと銘板。
非常電話
1968年(昭和43年)製
形 式:P9-2S?
定 員:9名
積載荷重:600kg
制御方式:AC2
さらに意匠変更がありました。この変更に関する資料は見つけられませんでしたが、段々と中期型に近づいていきます。
この世代から非常電話ボックスはなくなります。
大きく変わったのは銘板。「三菱エレペット」のプレートは中期型でも使われているものと同じになりました。
インジケータに変化なし。「非常呼」ではなく「インターホン」になっているのは珍しいです。
天井と敷居
1968年(昭和43年)製
形 式:P6-2S?
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC1
エレペットでは大変珍しい交流一段制御ですが、意匠に違いはありません。
見た目は普通のエレペットです。
1969年(昭和44年)製
形 式:P7-2S?
定 員:7名
積載荷重:500kg
制御方式:AC2
呼び出し釦に枠がありません。。
それ以外は普通です。
1969年(昭和44年)製
形 式:P6-SS?
定 員:6名
積載荷重:400kg
制御方式:AC2
一枚戸タイプです。
銘板とインジケータ。
天井と敷居。
1969年(昭和44年)製
形 式:P11-CO?
定 員:11名
積載荷重:750kg
制御方式:AC2
初期→中期の過渡期です。この頃になると、乗り場側が中期型でも使用される意匠と同一になるため、外見だけでは初期と中期を判別できなくなります。
行先階ボタンは破損防止のためか、このように枠がついていることがあります。
天井と使用方法のプレート
インジケータ。中期型と同じものです。
1970年(昭和45年)製
形 式:P9-CO?
定 員:9名
積載荷重:600kg
制御方式:AC2
中期型が発売された年です。
仕様のバラつきはほぼなくなり、規格形エレベーターとしての形が確立されたように感じます。
使用方法は中期型以降操作盤の蓋に表記されるため、この世代が独立したプレートとしては最後になります。